VIXは何を測るのか
VIX(Cboe Volatility Index)は、この先30日間にS&P 500指数がどれだけ大きく動くとオプション市場が予想しているかを年率%で表した指数です。市場が不安なときに大きく上がるため、よく「恐怖指数」と呼ばれます。すでに過ぎた価格の揺れ(ヒストリカル・ボラティリティ)ではなく、今取引されているオプション価格に込められた期待(インプライド・ボラティリティ)だという点が核心です。
- 誰がつくるのか:シカゴ・オプション取引所(Cboe)が1993年に初めて発表し、2003年に今の計算方法(S&P 500オプション、複数の権利行使価格を一緒に使う方法)に変えました。
- 何で計算するのか:満期まで23日から37日のS&P 500オプションのうち近い二つの満期を選び、複数の権利行使価格のプット・コールの価格を集めて計算した後、ちょうど30日基準に合わせます。
- なぜオプションなのか:大きな下落に備えたい人が増えると、下落の保険の役割をするプットオプションの値段が上がります。オプションが高くなったということは、市場が大きな動きを予想しているという意味です。
VIXがつくられる順序
- オプションの気配S&P 500のプット・コール
- 二つの満期を選ぶ残り23〜37日のオプション
- 分散を計算権利行使価格ごとの価格を合算
- 30日に合わせる二つの満期の間を補間
- VIX年率%で表示
数字の読み方:1か月・1日の予想変動幅
VIX 20は「この先1年続くと仮定すれば年20%ほどのボラティリティ」という意味です。この数字を1か月や1日単位に直すと実感しやすくなります。ボラティリティは期間の平方根に比例するため、次のように割ります。
- 1か月:VIX ÷ √12(約3.46)
- 1日:VIX ÷ √252(約15.9)。そのためよく「VIXを16で割ると1日の予想変動幅」と言われます。
VIXの水準別の予想変動幅(1標準偏差基準)
VIXはS&P 500指数全体に対する期待です。個別銘柄は指数よりはるかに大きく動くのがふつうなので、VIXが低くても自分の持っている銘柄は1日5%ずつ動くことがあります。個別銘柄の期待ボラティリティは、その銘柄のオプションのインプライド・ボラティリティで別に見ます。
ふだんの水準と急騰の歴史
1990年以降のVIXの長期平均はおおよそ20前後です。市場が穏やかな年には10台前半〜半ばに長くとどまり(2017年には10を下回った日が何度もありました)、大きな危機では短い時間で何倍にも跳ね上がります。
| 時期 | 何があったか | VIX |
|---|---|---|
| 2008年秋 | リーマン・ブラザーズの破綻と金融危機 | 2008年11月に終値で80を超えた |
| 2018年2月 | 長い低ボラティリティの後の急落 | 1日で10台後半から30台後半へ2倍以上に跳ねた |
| 2020年3月 | 新型コロナの拡大と急落、米国のサーキットブレーカーが何度も発動 | 3月中旬に終値で80を超え、史上最高の終値 |
VIXが動く典型的な形(例、実際の値ではない)
- 非対称:VIXは株価が下がるときに大きく上がり、株価が同じ幅で上がるときは少ししか下がりません。下落に備えるプットオプションの需要が一方に集まるためです。
- 平均回帰:非常に高いVIXは長く続かないことが多く、非常に低いVIXもいつかは上がってきます。ただし「いつ」はわかりません。
- 期待は実際より少し高い:平均するとVIXは、後で実際に現れたボラティリティよりやや高めです。保険料のように、リスクを引き受ける側が対価を受け取るからです(ボラティリティ・リスクプレミアム)。
期間構造とVIX先物
VIX指数そのものは売買できません。その代わり、将来のある月のVIXの値を取引するVIX先物(2004年上場)とオプション(2006年上場)があり、この先物価格を満期の順につなぐと期間構造になります。
VIX先物の期間構造:ふだんと危機のとき(例)
VKOSPIと他のボラティリティ指数
同じ方式のボラティリティ指数が市場ごとにあります。自分が投資する市場の指数を一緒に見るほうが正確です。
| 指数 | 対象市場 | 発表 |
|---|---|---|
| VIX | 米国S&P 500オプション | Cboe |
| VXN | 米国ナスダック100オプション | Cboe |
| VKOSPI(KOSPI200ボラティリティ指数) | KOSPI200オプション | 韓国取引所 |
VKOSPIはKOSPI200オプションの価格でこの先30日の期待ボラティリティを計算する「韓国版VIX」です。世界の市場が一緒に揺れる危機ではVIXと一緒に上がりますが、韓国の政策・地政学の問題のように韓国市場だけに当てはまる出来事では、VKOSPIだけが別に跳ねることもあります。ハイテク株の比重が大きいナスダック100のVXNは、ふつうVIXより数ポイント高く動きます。
恐怖・強欲指数
「恐怖指数」という言葉は、米国の放送局CNNが公開している恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)を指すこともあります。名前は似ていますが、VIXとはまったく違う指標です。0から100の間の値で、0に近いほど「極度の恐怖」、100に近いほど「極度の強欲」を意味します。
この指数は、市場心理を示す七つの指標を同じ比重でまとめてつくります。
- 株価のモメンタム:S&P 500が直近125日移動平均よりどれだけ上・下にあるか
- 株価の強さ:ニューヨーク証券取引所で52週高値の銘柄数と安値の銘柄数の差
- 市場の幅:上がる銘柄と下がる銘柄の出来高の差(マクレラン出来高サメーション指数)
- プット・コール・レシオ:下落に備えるプットオプションの取引がコールオプションよりどれだけ多いか
- ジャンク債の需要:信用度の低い社債と優良社債の利回りの差
- 市場のボラティリティ:VIXが50日移動平均より高いか低いか
- 安全資産の需要:直近20取引日の株式と国債のリターンの差
VIXと恐怖・強欲指数の比較
| VIX | 恐怖・強欲指数 | |
|---|---|---|
| 測るもの | 30日の予想ボラティリティ(オプション) | 心理指標7種類 |
| 単位 | 年率%、高いほど不安 | 0〜100、低いほど恐怖 |
| 発表 | Cboe(ザラバの間ずっと) | CNN |
| 取引商品 | 先物・オプションあり | なし(参考用) |
恐怖・強欲指数は複数の指標の合計なので、一つの指標が跳ねてもあまり揺れませんが、そのぶん反応が遅く、計算に使う期間(125日、50日など)によって値が変わります。VIXの動きも七つのうちの一つとして入っているため、二つの指標が同じ方向に動くことが多いです。
投資に使うときの落とし穴
「恐怖が大きいときこそチャンス」という昔からの言葉がありますが、VIXは底を知らせるサインではありません。2008年にはVIXが40を超えた後も、米国の株価は2009年3月までさらに数か月下がりました。逆に低いVIXが安全を意味するわけでもありません。2018年2月のように、長く穏やかだった市場が1日で変わることもあります。