退職一時金と企業年金
- 退職一時金: 退職時にまとめて受け取る退職金です。法律上の義務ではないため、有無や金額は会社の退職金規程によって異なり、退職給付制度がない会社もあります。
- 確定給付企業年金(DB): 会社が運用の責任を負い、あらかじめ決められた給付を支払います。年金か一時金かを選べることが多い制度です。
- 企業型確定拠出年金(企業型DC): 会社が拠出した掛金を本人が運用し、運用成果によって受取額が変わります。原則60歳まで引き出せず、転職時は転職先のDCやiDeCoに移します。
- 受け取り方と税金: 一時金で受け取ると退職所得、年金で受け取ると雑所得(公的年金等)として課税されます。一時金は次の退職所得控除が大きく、税負担が軽くなりやすいのが特徴です。
退職所得控除と2分の1課税
勤続30年で2,000万円を受け取ると、課税退職所得250万円に対して所得税は約15.6万円(復興特別所得税込み)、住民税は25万円程度です。退職所得はほかの所得と合算せずに計算します(分離課税)。
「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出すれば、会社が正しい税額を源泉徴収するため確定申告は不要です。提出しないと20.42%が一律で源泉徴収され、確定申告で精算することになります。
役員等で勤続5年以下の場合は2分の1課税がなく、一般の従業員も勤続5年以下なら控除後300万円を超える部分には2分の1課税が適用されません。
退職所得 =(退職金 − 退職所得控除額)× 1/2 退職所得控除額 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円) 勤続20年超 :800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
| 勤続年数 | 退職所得控除額 | 退職金2,000万円の場合の課税退職所得 |
|---|---|---|
| 10年 | 400万円 | 800万円 |
| 20年 | 800万円 | 600万円 |
| 30年 | 1,500万円 | 250万円 |
| 38年 | 2,060万円 | 0円 |
勤続年数に1年未満の端数があるときは1年に切り上げます。
iDeCo — 掛金の上限と2027年の変更
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分で掛金を出して運用し、60歳以降に受け取る制度です。掛金は全額が所得控除、運用益は非課税で、受け取るときは退職所得控除や公的年金等控除を使えます。原則として60歳までは引き出せません。
| 加入者 | 現在の月額上限(2024年12月〜) | 2027年1月拠出分から(2026年12月分〜) |
|---|---|---|
| 自営業者など(第1号) | 6.8万円(国民年金基金などと合算) | 7.5万円(合算) |
| 会社員・企業年金なし | 2.3万円 | 6.2万円 |
| 会社員・公務員・企業年金あり | 2.0万円(企業年金の掛金と合計5.5万円以内) | 企業年金の掛金と合計6.2万円以内 |
| 専業主婦(夫)など(第3号) | 2.3万円 | 2.3万円(変更なし) |
厚生労働省の資料に基づきます。加入できる年齢も2026年12月から70歳未満に広がります(老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受け取っていないことなどの条件があります)。
受け取り順のルール変更 — 5年から10年へ
iDeCoや企業型DCを一時金で受け取ったあとに会社の退職金を受け取ると、両方の勤続(加入)期間が重なる部分は退職所得控除が1回分しか使えません。これまでは、iDeCoの一時金を受け取ってから5年以上あけて退職金を受け取れば、重複は問われませんでした(いわゆる5年ルール)。
令和7年度税制改正により、2026年1月1日以後にiDeCo・DCの一時金を受け取り、その後に退職金を受け取る場合は、この期間が10年に延びました(2025年までに受け取った一時金は従来の5年ルール)。たとえば60歳でiDeCoの一時金、65歳で退職金を受け取る計画では、控除が重複して税負担が増える可能性があります。退職金を先に受け取り、あとからiDeCoを一時金で受け取る場合の期間(いわゆる20年ルール)は変わりません。
対策としては、iDeCoを年金形式で分けて受け取る、一時金と年金を組み合わせるといった方法があります。どれが有利かは退職金の額、ほかの年金収入、社会保険料まであわせて計算する必要があるため、受け取る直前にもう一度確認しましょう。
公的年金 — 国民年金+厚生年金
- 国民年金(老齢基礎年金): 20〜60歳の40年間(480か月)保険料をすべて納めた場合、令和8年度の満額は月70,608円です(昭和31年4月2日以後生まれ)。納付期間が短いとその分減り、受給には最低10年の資格期間が必要です。
- 厚生年金(老齢厚生年金): 会社員期間の平均報酬と加入月数に比例します。令和8年度の標準的な夫婦世帯(平均的な収入で40年働いた夫と専業主婦)のモデル年金は、夫婦合計で月237,279円です。
- 年金額の改定: 令和8年度の年金額は前年度から国民年金が1.9%、厚生年金が2.0%の引き上げです。物価や賃金に応じて毎年4月分から改定されますが、マクロ経済スライドにより、引き上げ幅が物価上昇率より小さく抑えられることがあります。
- 自分の年金を確認: 誕生月に届く「ねんきん定期便」や日本年金機構の「ねんきんネット」で、加入記録と年金見込額を確認できます。
受給開始は65歳が基準 — 繰上げと繰下げ
繰り下げると毎月の受取額は増えますが、受け取る期間は短くなります。単純計算では、70歳開始なら約82歳、75歳開始なら約87歳より長生きして初めて、65歳開始の累計額を上回ります(税金・社会保険料を除く)。年金額が増えると税金や健康保険料・介護保険料も増えることがある点もあわせて考えましょう。
支給停止額(月額)=(総報酬月額相当額 + 基本月額 − 65万円)÷ 2
- 在職老齢年金: 60歳以降も会社で働きながら老齢厚生年金を受け取る場合、給与(総報酬月額相当額)と年金(基本月額)の合計が基準額を超えると、超えた額の2分の1の厚生年金が支給停止されます。基準額は令和7年度の51万円から、2026年4月に65万円へ大きく引き上げられました。国民年金(基礎年金)は減りません。
| 受給開始年齢 | 年金額(65歳=100%) |
|---|---|
| 60歳 | 76%(繰上げの上限) |
| 62歳 | 85.6% |
| 65歳 | 100% |
| 68歳 | 125.2% |
| 70歳 | 142% |
| 75歳 | 184%(繰下げの上限) |
繰上げは1か月あたり0.4%減額(昭和37年4月2日以後生まれ)、繰下げは1か月あたり0.7%増額で、減額・増額は一生続きます。
NISAとの関係
老後資金を自分で準備するもう一つの非課税制度がNISAです。2024年から年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)、生涯1,800万円まで運用益が非課税です。iDeCoと違っていつでも引き出せますが、掛金の所得控除はありません。令和8年度税制改正には、2027年から0〜17歳もつみたて投資ができるようにする内容が盛り込まれています(実施の詳細は金融庁の発表で要確認)。
どちらの制度も元本保証のない商品を選ぶことができ、どの商品が合うかは運用期間やリスク許容度によって異なります。この記事は制度の説明にとどめ、特定の商品や配分をすすめるものではありません。
よくある質問
退職金は一時金と年金のどちらで受け取るのがよいですか?
一時金は退職所得控除と2分の1課税で税負担が軽いことが多く、年金は受け取る間も運用が続く一方、毎年雑所得として課税され、国民健康保険料などにも反映されます。制度の利率やほかの収入によって結果が変わるため、会社が用意するシミュレーションで比べてみましょう。
外国人が日本を離れると年金はどうなりますか?
加入期間が10年未満なら、出国後2年以内に脱退一時金を請求できます。ただし受け取るとその期間は加入期間から除かれます。日韓社会保障協定には加入期間の通算規定がないため、将来日本の年金を受け取るか脱退一時金を受け取るかを比べる必要があります。
iDeCoはいつから受け取れますか?
60歳から75歳の間で受け取りを始められます。60歳時点で加入期間が10年未満の場合は、受け取りを始められる年齢が遅くなります(最長65歳)。
60歳以降も働くと年金は減りますか?
国民年金(基礎年金)は減りません。老齢厚生年金は、給与と年金の合計が令和8年度の基準で65万円を超えた場合にだけ一部が停止されます。65歳以上70歳未満の人は、働いている間に納めた厚生年金保険料が毎年10月分から年金額に反映されます(在職定時改定)。